「航路」
人は風景であり 風景は人である
歩く
地平線に向かって歩く
何もないところから歩き始める
歩くことによって地平線を穿つ
歩くという指向性がやがて地平線を造形して行く
地面が躍動し始めるのは歩いたからだ
風を起こしたからだ
野原にたくさんのススキ
風は何処からやってきたのか
あるいはお前を歩かせる動機の始原はどこにあるのか
吸い込まれそうな青色の空
足の重さを感じるようになって
大地が傾斜していることに気付いた
あたりが暗いのに気づいて
自分が森の中にいることに気付いた
木の葉のこすれる音を聞いて
風があるのに気付いた
風の音で
周囲にある空間を
感覚的に感じることができた
私はどこへ行くのか私はどこへ行くのかあるいは私はどこへ帰るのだろうか私はどこへ還るのだろうか私はどこへ行くのか私はどこへ行くのかあるいは私はどこへ帰るのだろうか私はどこへ・・・・・・・・
鳥の鳴き声が聞こえる
右から 左から 奥の方から または近くから……
時にいっせいに飛び立っていく鳥たちはどこから来てどこへ行くのか
穿った場所があるのが聞こえる
かすかにせせらぎの音がしてくる
その場所を見つけてそこで水を飲む
水を飲む
という行為について考えながらせせらぎを背に丘の中へと再び歩いて行く
私はどこへ向かっているのだろうと考えてみた
しかし、その「何処」はまだ始まらないまま私の向かう方向に隠されている
ではどこから来たのか
その問いは私が歩くことへのひとつの理由という以外に答えはない 今は
問いの中を歩いているのだ
(水はどこから流れて来たのか それはどこに発生したのか 水は私の所に流れて来たのだろうか あなたはだれ)
私だよ と誰かが言った
ここはすべて私の内側なのだよ
あなたは誰ですかと聞いた
私はあなただ
あなたは私なのだ
しかし私はあなたの前に立っているではないか
風景はそのなだらかな表面を次第に人の姿へと変えていった
君は私の中を歩いて来たではないか
だから君は私になったのだ
私は君の中を歩いていたのだ
だから私は君なのだ
風はどこからやって来たのか
あるいはお前を歩かせるその動機の始原はどこにあるのか
野原にたくさんのすすき
すすき
どこからやって来たのかね?
と白く細い手が言った
吸い込まれそうな空の青
何かの思念が形を取ることのないまま
風が形姿を揺らめかせている雲
風は手のあるところに生まれるだろう
そしてあなたはいったい誰ですか?
だから言ったろう私は君なのだと
地平線に手が届く
雲が横に長く長く流れて行く
その内側に闇を孕ませながら
行き場所が二手に割れる
その向こうにには恐怖があるだろう
開かれた闇の奥にはだれが待っているのだろう
吸い込まれそうな空の青
未だお前なのではないお前の要素が移ろっている
方向へと
しかしそれはどのような人格なのか
歩く
地平線に向かって歩く
歩くことによって穿って行く
その時に
生まれ始める
お前の
風景よ
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